前の記事からずいぶんと日が経ってしまいました。
以前ご注文いただいた仏壇について書きたかったので、すこしエピソードを。
「これを仏壇のどこかに使ってほしいんです。」
K様から仏壇のご注文をお受けした際に見せていただいたのは、日本家屋によくみられる、家紋入りのいわゆる「欄間」でした。
なんでも、ご実家を解体された際に救い出したもので、今は無きご実家の唯一の思い出だということ。その欄間を、仏壇という新しいかたちとして残してほしいとのことでした。
打ち合わせの際に決まっていたことは、仏壇は洋間の棚の上に安置されるということ、洋間の雰囲気に合わせたいということ、仏壇の内部を明るくするための照明ではない何かを取り付けてほしいということ。
大きさや仕様は早い段階で決まっていたので、今回一番のポイントである欄間の組み込みをどうするか。
洋間に安置されるということでしたので、仏壇自体のシンプルですっきりとした印象を大事にしながらも、家紋入りの欄間の良さも損なわないようにしたい。そのためには、欄間をどの部分にどのように組み込むのが一番よいか。
本組みをする前に、ああでもないこうでもない、近づいてみたり、離れてみたり、覗き込んでみたり。とにかく一番しっくり収まるところを探しながらの製作でした。
最終的に、全体のバランスを見ながら天板裏面に半分埋め込む形で欄間を組み込むことにしました。
そしてもうひとつ。内部を明るくするための照明ではない何かを取り付けたいということ。
タイルのような、なにか少し光沢のあるような、それでいて無機質ではなくあたたかみが感じられるようなものをと考えていたときに、鹿児島県内で焼き物の製作をされている七然窯さんの器が浮かびました。
イメージを伝えて薩摩焼の陶板を製作していただき、背板部分に設えました。
白のようで白ではない、なんともいえないやわらかな色味と程よい光沢が、内部を明るくし、全体の印象をとてもあたたかいものにしてくれています。
鹿児島の県木であるクスノキと、薩摩焼の陶板。鹿児島をふんだんに感じられる仏壇に仕上がり、鹿児島ってやっぱり素敵だな、とそんな気持ちになったのでした。
今回は、お客様の思い出の欄間を仏壇という新しいかたちとして残すことができ、作り手としてとてもとても光栄でした。
お客様一人ひとりの思いに寄り添い、かたちにする。そんなオーダーメイドの醍醐味を感じた一件でした。
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